どうすれば良いのか、何かしてやれることはないのか、ピザ窯の前を行ったり来たり動物園のクマみたいにうろついては巣門を覗き込み、出るのはため息ばかりです。10日に一度の内検と決めていたけどもうそんなことどうだっていい。
・・・その4日後、そこには目を疑う光景がありました。巣が落ちていたのです。いちばん大きく成長した中央の巣板です。その上は一体どうなっているのか、、、たったの4日間でそこまでなってしまうの?とりあえずステンレス板をどけて、落ちかけている巣板を外そうとしたらその両隣の巣板もグラグラしていて、下半分が簡単に取れてしまった。それに続いて芋ズル式に髪の毛のカタマリのような黒い物体が!
見えない中を手探りで触るのにはかなりの度胸が必要でした。フワフワなのにベトベトしてて、モッタリと重くて、生温かった。引きずり出したその物体には丸々と太ったスムシが激しく動き回り・・・子供の頃、原っぱに埋もれていた猫の死骸を棒でひっくり返した時に見た光景、シャーっと音を立ててウジが動き回っていたあの光景に似ていましたけど、ウジは行く当てもなく蠢くのに対し、スムシにはもっと強い意思が感じられてスピードと前進するパワーがありました。彼らは怒っているように見えました。
原型をとどめない部分だけを引きずり出してカメラを奥に差し入れて撮影しパソコンで確認してみると・・・・そこには暗黒と言うにふさわしい世にも恐ろしい世界が広がっていました。そしてそのいちばん奥の方に巨大な洞窟の天井に生息するコウモリのように、しっかりと球を形成する最後の生き残りのはっちゃんが!
ああ!、、、ああ!、、、、、!!
あの暗黒物体は温かかった。それは間違いなくハチたちが発していた温度です。スムシはハチたちに温められて、あんなに、弾けるように元気に蠢いて、丸々と太って勢力を拡大していました。取り出した真っ黒なカタマリは新聞紙の上に置いたらみるみる冷たくなり、まるで魔法が解けたようにスムシたちも動かなくなりました。今でも右手に残るあの悲しい温もりは生涯忘れることができません。
自然は、弱った者には容赦しない。本当はこんなところさっさと出て行けば良いのに、、、でも、もう寒いし、女王がいないのだから引っ越したって意味がない。このまま崩れ去る暗黒の廃城に埋もれて行くしかないのかな。