6月半ばに質問記事を投稿し、「スムシ食害に遭った巣箱をお譲りください」と呼びかけさせていただきました。
全国から多くの方々が賛同してくださって、当初の計画で必要であった数量、ほぼピッタリの数が揃い、理想的な形で作品を完成させることができました。この場をお借りしてご協力いただいた方々、今はないけど応援してるよと励ましてくださった方々に心から感謝申し上げます。
以前から巣箱の内側に残された表情を興味深く観察し、美しいテクスチャーであると感じていました。私はそこに「命の痕跡」を強く感じていたからです。皆さんもご存知の通り、巣箱の内外では命懸けの生存競争が繰り広げられています。「チキショウメ!また来やがったな!」とラケットを振り回したり、毒入りの餌を設置したり、ヘラで底板を掃除したり、中には電気柵を設置しなければならない地域の方もいらっしゃいます。可愛いミツバチを守らなくてはと、ミツバチと共に敵と戦うことは、厄介な作業でありながらどこか、その問題が改善された時の達成感、蜂が喜んでると感じた時の喜びなど、養蜂の奥深さと充実感を感じる理由の一つかもしれません。
私も同じようにミツバチに加勢して、ミツバチに良かれと思う行動をしますが、四角い重箱を解体して平面に並べ、その面積が幅3メートル、高さ1メートル80センチの大画面ともなると壮観で、強勢を保つことができた群の痕跡と、負けて穴だらけにされてしまった痕跡、その両方が一枚の画面にランダムに並べられた様を見てみると、そこには命が鼓動を打つように広がっていて、養蜂を経験して学んだことや感動したことがすべて詰まっているんだなぁと、改めて強く感じました。スムシも一生懸命に生きようとしていたし、ミツバチも一生懸命生きようとしていた。その証拠が美しいビジュアルで展開している。木という素材を媒介として付着する蜜蝋と、逆に削り取られ、木版画の版を彫刻刀で掘ったような表情。どちらかが善悪と決められるものではなく、どちらも等く美しかったのです。
私はその上に、この展覧会で求められていたテーマや展覧会への思いなどを表すために、文字を書き込みました。アルミを800度で溶解し、柄杓に汲んで流し込みます。800度に沸いた金属は蜜蝋を溶かし、その下の杉の板に触れた瞬間に燃えます。杉と蜜蝋が燃えて、アトリエの中はなんとも言えない匂いと煙に包まれました。私はそこに象徴的な紋様ーーー8の字ダンスのループを描きました。オーストリア生まれの動物行動学者、カール・フォン・フリッシュはこの8の字が、花のありかを仲間に伝える言語であることを発見し1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、この図形はメビウスでもあるし、永遠の記号♾️でもあり、謎めいて魅力的なこの図形を刻みたいと思いました。
* 上記の画像はすべてアトリエでの撮影
よく見ると板には様々な厚みとサイズがあります。私の重箱は肉厚24ミリ幅150ミリの破風板を使っていますが、30ミリの板を使っている巣箱は反りが少なくガッチリしていて、おそらく耐用年数も長いと感じました。幅を180にする人、逆に100にして、採蜜しすぎないようにしている人、養蜂に対する考え方も様々であることを垣間見ることができました。
私は一番最初にミツバチについて調べようと思ってネットでヒットした、このミツバチQ&Aが、師匠とも言える存在で、ほとんどすべてのことをここにいらっしゃる皆さんから教えていただきましたが、この度自分の作品を美術館で発表する機会を得て、そこで表現する素材をミツバチQ&Aの全国の皆様からのご協力で完成させることができたことを誇りに思うし、このサイトに対しても本当に心から感謝しております。
ありがとうございました!
展覧会は昨日オープンし、9月24日まで開催されております。もしお近くに来るついでがありましたら、ぜひお立ち寄りください。