前回の日誌に続き展覧会の作品についてのお話になります。
今回制作した新作は全部で3点、全て壁に設置する平面作品(半立体)でした。前回の日誌に掲載した作品はタイトルを「手紙」と言います。手紙シリーズは2点作りました。今回の日誌ではシリーズ1点目の制作風景の動画を掲載いたします。
この度私が出品したのは千葉県市原市が運営する市原湖畔美術館で開催されている「湖の秘密」と言う企画展です。湖畔美術館のリニューアルオープンから10年が経過し、その記念展です。湖の畔に建つ美術館ですから、高滝湖という湖が地域にとってどのような存在であるかということが作家の制作に影響を与えます。リアルタイムで現在も活動する作家が、その時代にその場所で、その場所でしか発想できないものを作ることを専門用語で言いますとサイトスペシフィックアートと言います。
上総地方の東京湾に面した一帯はその昔水害が多かったそうです。台風の度に養老川が反乱していたそうです。そこで上流にダムを作って水をコントロールできるようになってから、下流の穀倉地帯がさらに繁栄して行ったのですが、ダムを建設するにあたって水没した村落があり、今も湖底に沈んでいます。このような歴史や地域の自然や人々の生活などを発想の源泉として、参加した作家たちに展示を依頼するという形の企画展でした。
私が展示した部屋は二人の彫刻家によってひとつの世界を創造しました。その展示コンセプトを以下に貼らせていただきます。
高滝湖畔の沈みゆく(あるいは目覚めゆく)時間の経過と素材の変質を主に壁面を使って尾崎悟が表現し、これに取り囲まれた場に時空、磁場を形成させる。この場に松隈健太朗が人類もしくは作家個人の「旅」を歌い上げる。旅が終息される場には人間がそこに確かに生きて暮らした証である「塚」が建立される。そこは安息の地であり、懐かしさと包容力に溢れ、人間だけでなく生き物全てを祝福する楽園である。楽園に息づく「魑魅魍魎」は二つに分けられる。「魑魅」は山に蠢くもののけで、「魍魎」は川に潜むもののけであり、古来から村人が畏れ崇めて来た妖怪であるが、命の恵みをもたらす山河に対する感謝と畏敬、そして差別敵対ではなく共存(寄り添うこと)を願うからこそ、この世界は成立する。二人の作家が共感できるのはまさにそこで、自身が旅を経て到達したいと願う場所、帰郷すべき場所を作りたい。
上記のコンセプトにもある通り、私に課せられた使命は、展示室の四方の壁に展示することで濃密な時間の経過、時間の蓄積を表現することでした。ミツバチの営巣の痕跡とスムシの繁栄の歴史をひとつのレリーフ作品に封じ込めることで、数万年前から繰り返されてきた栄枯盛衰を表現したかったのです。この密度ある壁面に囲まれた空間で、私の作品に負けない作品を展開することはとても困難なことなのですが、松隈氏の作品は強いので、素晴らしいバトルになるであろうと確信していました。