手に入れた樹洞を加工する時に、丸太の中央付近の抜け落ちている部分が少なく、その周辺がフケフケになって今にも崩れそう、指でも楽に掘って行けるほどグズグズになっている場合があります。これはこの部分だけは生物学的には死んでいて、原因は外敵に侵入されたからですが、このフケ部分、実は蜂にとってすごく有益なものではないかと考察してみました。このスポンジ状の素材は吸湿性能、断熱性能に非常に優れています。
これは桐の丸胴。フケた部分がたくさん残されている。
こちらは樹種不明の丸胴。フケ部分がほとんど抜け落ちている。
樹木がこのような状態になる原因は鉄砲虫による食害が引き金になっていると思います。硬い木質も難なく侵入し、木目に沿ってトンネルを掘って行きます。代表的な鉄砲虫はシロスジカミキリの幼虫ですが、ヤマトタマムシの幼虫も同じような被害を与えます。樹皮直下の水が行き来する部分を残して内部が食害されて行き、他の幼虫(クワガタムシなど)も入って丸太の内部がボロボロにされますが、樹皮に近い生命線だけは食害されないため、中が朽ちても木は生き続けられるようです。
シロスジカミキリの幼虫。モスラの原型ですね。
これはコカブトムシの越冬個体。幼虫は肉食で鉄砲虫の天敵だそうです。
このようにして樹洞は出来上がりますが、これを利用して暮らすのがニホンミツバチで、様々な菌などとも共生しながら、寒さと暑さ、天敵スズメバチに対する防御など、ニホンミツバチにとって必要不可欠の住環境であると感じます。ちなみにスムシが重箱のスギ材に穴を掘ってサナギを作るのは、このような樹洞で共生してきた歴史があり、巣屑が目的であってもミツバチの攻撃から身を守るために穴を掘るための強力な顎が必要だったと考えると納得できます。穴に潜んで巣に侵入を試みますが水際でミツバチたちが食止めているのでしょう。
このようにして考えると、樹洞の加工をするときには樹洞内壁の柔らかい部分をある程度残してあげて、湿度の調整や断熱もできる状態の樹洞が、より好まれるのではないかと感じます。中をきれいに削ってしまうのではなく、内部空間を確保しつつも柔らかい部分を残してあげる方が良いと私は考えています。
健康な木がカミキリの食害を受け始めてから中央部に空洞が生まれ、やがてある程度の容積を持つようになるころからミツバチが営巣し、様々な昆虫の食害が進んで幹の上の方まで空洞化が進み、台風などで倒れたところで、樹洞はミツバチの巣としての役目を終えて最終的には土に帰るという歴史を繰り返して行くのだと思いました。このような自然樹洞は太さのある古木であることが条件で、そのような木が残っているのは神社やお寺周辺の保護されている地域にしかなく、森が開発されて行けばこのような住環境が不足するのは目に見えています。神社などの近くに待ち箱を設置すると高確率で入るのはそのような事情があるからでしょう。