ハイブリッドは内側にこそ、その魅力があると私は考えました。「ニホンミツバチは森の木のウロの中に巣を作る」という話を聞いて以来、私は取り憑かれたように森の中を徘徊し、ウロを見つけては覗き込んでを繰り返しました。良い感じのウロを見つけても決して手を突っ込むような真似はできません。何かに噛まれたり刺されたりしそうだからです。ミツバチの身になって考えてみると、この恐ろしげな樹洞の中に探索に入るのは物凄い勇気のいることです。中でクモやムカデが待ち構えてるのは目に見えているからです。従って探索蜂の仕事は場所取りだけでなく仲間を呼んできて何度も出入りすることで繰り返し安全を確認しているのかもしれません。
話は少し逸れますが、私が樹洞に最初に魅了されたのは若い頃に屋久島の縄文杉を見にいった時のこと、途中に名所である「ウィルソン株」という、豊臣秀頼が大阪城築城のために切らせたと伝わる屋久杉の株が残っていて、そんな大昔に切り倒された時の切り株が今なお残っているというのが驚きですが、(ちなみに切った木はデカすぎて結局山から降ろせなかったそうです)大正時代になってアメリカの植物学者のウィルソン博士が調査して海外に紹介したというのが名前の由来だそうですが、このウィルソン株、人が中に入れるほど巨大で、入るとその足元から湧き水が出ているのです。何と神聖な場所だろうと衝撃を受けました。そのイメージが鮮烈に残っていて、樹洞について考える時、ミツバチが素敵な樹洞を求めて森を彷徨うのは分かる気がするのです。
そんな訳で、「樹胴ハイブリッドは最初から中が抜けているものを利用する」というのが私にとっての絶対条件となりました。中が抜けていればチェンソーで抜く手間が省けるという作業性以上に、「ミツバチが見た風景」を再現することで気に入ってもらえるのではないかと考えるのです。
良い具合のサイズ、特に断面の何パーセントが抜けているかというのは重要です。幹が太くて抜けた空間が狭いと相当な重量になりますので待ち場まで運ぶのが大変です。出来るだけ大きく抜けている樹洞を探すのは一苦労です。素材との出会いですから運もあります。