皆さまちょっとご無沙汰しておりました。分蜂も秒読みに入ってまいりましたね。
採蜜や消滅・逃去の際には蜜蝋が手に入ります。蜜蝋は待ち箱に塗ることで蜂の入居率を格段に上げると言われていますが、ハンドクリームや蜜蝋ラップなど、ミツバチの飼育以外でも生活を楽しく豊にしてくれる素材である以外に、蜜蝋は蜂蜜と並んで人類の歴史の最も最初の頃から利用されて来ました。水気を跳ね返すその性質から家具や革製品などの保護、ろうそくとして照明にも使われて来たし、染色や陶芸など、工芸品の製作にも必要不可欠な素材として文明の発展を支えてきてくれた素材です。
その中で特に革命的な大発見、金属の使用に貢献した素材として、日本では飛鳥時代より金属製品を作る上でなくてはならないものでした。蝋型鋳造(ロストワックス)と言って、原型となる形を蝋細工で作り、それを土で覆って鋳型を作ります。その鋳型を窯に入れ、1日以上焼いてあげると中の蝋が熱によって溶けて、さらに加熱することで燃え尽きて、そこに空洞ができます。その空洞に溶かした金属を流し込む。それが蝋型鋳造です。
今から6年前に我が庭に設置してあったピザ窯に偶然ミツバチが入居してくれたことをきっかけに私のミツバチライフは始まりましたが、自分で飼育したミツバチの蜜蝋を使って自分の作品を作りたいということが、彫刻家である私の夢となりました。ある程度まとまった量が必要なので毎年少しずつ集めて、いつかそれで作品を作ってみたいと思ったのです。それまでは中国産の蜜蝋を購入していたのですが、ニホンミツバチの蜜蝋は伸びが良く手離れも最高で、良いものが作れそうだなぁと楽しみにしておりました。
養蜂を始めると地域で活動している他の飼育者の方との情報交換などもできるようになり、受粉交配用にセイヨウミツバチの群をハウス農家に貸し出すことを生業としている養蜂家の方と知り合うことができました。ニホンミツバチとセイヨウミツバチは飼育の仕方などに少しの違いがありますが共通する部分も多く、その養蜂家の方からは多くのことを教えていただきました。自分の仕事のために蜜蝋を少しずつ集めているんですと何気なく話したら、何かに使えるかもしれないと毎年蓄えて来たけれど、そう言うことなら君にぜひ使ってもらいたいと言われびっくりしました。車で取りに来いと言われ、行ってみたら物凄い量の蜜蝋が。。。200キロくらいありました。
全部タダで良いと言われ戸惑ったのですが、それならばこの蜜蝋を使って記念となる作品を作り、彼にプレゼントしようと思いました。以下はその作品を作る制作工程となります。
少し長くなるけれどお付き合いください。
鋳物は原型がひとつあればそれを量産することができる技法ですが、雌型に蜜蝋を張り込む方法と、蜜蝋を直接いじって作る”手びねり”と言うやり方があり、前者は石膏で作った雌型にパラフィンを添加して溶かした蜜蝋を刷毛で塗って厚みを付けるのに対し、手びねりでは松ヤニを混ぜると粘土のように可塑性が良くなり、手によって造形される形をそのまま作品の原型とすることができるため、今回は「手捻り」で作ることにしました。手捻りは作った原型が鋳型の焼成の際に溶けて消失して代わりに金属に置き換わるため、そのかたちたったひとつ、世界に一つだけの作品となります。
シリコンを吹き付けたガラス板の上に溶かした蜜蝋を流して、蝋の板を作り、それを土台(地面)としてその上に風景を作ることにしました。松ヤニが添加されているので色が茶色っぽいです。この蝋型原型を耐火石膏に埋没して鋳型とします。これを石膏鋳造と言って、ルネサンス期にイタリアで発展した技法です。
蝋型原型が完成したら、その原型に「湯道」と言う蝋の棒をハンダごてで溶かして接着します。この湯道は溶けた金属が作品に流れ込むために必要です。右側に見える黒くて太い湯道から金属が流れ込み、作品を満たした金属が最後に青い湯道から登ってきます。
ブリキを巻いた筒の中に原型をセットして石膏を流し込み、作品と一体化した湯道全てを石膏に埋没します。
石膏で作った鋳型を、耐火煉瓦を築いて窯を作り、その中に並べて丸一日かけて灯油バーナーで焼成します。窯の内部は700度くらいになります。
焼成が終わって窯を崩し、中から繭のような鋳型が出て来ました。この鋳型の中は先ほどの蝋原型と湯道が複雑なトンネルのような空洞になっているはずです。この時は仲間の作品も一緒に鋳造したので、鋳型は6個になりました。限りなく水分がゼロに近い状態です。もし鋳型に水分や蝋分が残っていると、湯を注いだ時に(溶かした金属の事を「湯」と言う)大爆発を起こして大変危険です。
鋳型を土間に埋めて、鋳込みの準備完了です。上部に「湯口」と言う、金属を流し込む注ぎ口が開いていますが、砂が入らないように蓋が乗せてあります。
いよいよ金属を溶かします。今回は真鍮で作るので、坩堝(るつぼ)の中には真鍮の地金を入れてあります。コークスが燃料で、炉の中は1400度くらいになります。炉の上にバケツのようなものが被せてありますが、これは「とりべ」と言って、このバケツに湯を汲み出して鋳型に注ぎ込みます。汲み出した湯が冷めないようにとりべを炉の上に乗せて加熱しています。
お話の続きはまた明日♪