待ち受け場探しをするために、この1ヶ月あちこちウロウロしているのですが、素敵な場所を見つける楽しみの他に、地域の人とお話ししているといろんなことを考えさせられます。
南向きの斜面に畑を作り、通路も小ぎれいに管理されたその場所は、尾根の木々の隙間からも一目でその楽しげな雰囲気が伝わって来て、腰に手をやって佇む主人の姿も絵になっていました。声をかけずにいられなかったのは、その美しい斜面畑に重箱が点在していたからです。聞くと昨年はゼロだったそうです。だから置かれた全ての重箱は待ち箱と言う格好でした。いつ頃からやっているとか佐倉の南はアカリンダニで壊滅状態だとか、お互いに知っている情報を伝え合ったりしていたのですが、彼が寂しそうに愚痴をこぼし始めました。「あそこに大きなクヌギがあるだろ、あのコブのある部分は2年前までウロがあって、自然巣が毎年強群を育ててくれていたんだよ。何度も分蜂して、今ここに置かれた巣箱はいつも蜂と蜜で満タンだったんだよ。クヌギにもできるだけいい条件をと思って、ある年に隣に生えていた杉の大木を切り倒してみたんだ。そうしたらどうなったと思う?日当たりが良くなったらそのクヌギにすごい数の葉が茂って来て、木に勢いが出て来たと思ったら、見る見るうちに発育し始めて、ウロの入り口がたったの3年で塞がってしまったんだよ。それ以来群がひとつも来てくれなくて、重箱の群も減っていき、最後に残されていた群もスムシが入って逃去してしまい、今はこんなわけなのさ。」「きっと来てくれますよ!」と励ましてみたものの彼の気分は春なのに憂鬱なままでした。作物の間には水仙やクリスマスローズが並び、菜の花が一列に並んで輝いていました。
車を走らせながら、森に繰り広げられる数えきれない栄枯盛衰を想像しました。森を支配していた巨木が不運にも嵐によって倒れてしまうとそこに光が差し込み、我慢していた植物の種たちが一斉に芽吹いて、我先にとできる限り高く伸びようとする。すぐ隣で長年不遇の時を過ごしていたクヌギにもチャンスが訪れる。他が育つ前に枝を茂らせてしまえば勝ちです。しかしそれによって、それまでいく年にもわたって最高の家を提供されて来たミツバチは、また新たに別の家を探すことになるのでしょう。