一昨年の9月に保護収容の依頼を受けました。平屋の古民家を改修して住んでいるカメラマンの方。トイレの床下に営巣されているらしいと言います。壁と布基礎のわずかな隙間からミツバチが出入りしていました。その手前には薪を燃料としたセントラルヒーティングのかまどがあり、配管などが入り組んでいるから巣門に近づくのも少し面倒な場所でした。トイレの床は剥がしたくない、外壁を壊すのもスレートを釘で打ち付けてあるので剥がしたスレートを元に戻すことができません。(新しいスレートを買いたくない)巢板の摘出は不可能なので、何らかの方法で逃去させるしかないと言うミッションです。
このような依頼の時に以前から試したいと考えていたのは、アカリンダニ対策用に作ったメントール加熱器にホースを繋いで、蒸散させたメントールガスを巣門から送り込み、、、をしつこく繰り返すことで、(いるかもしれない)アカリンダニの駆除と逃去を同時に行うと言うものです。
↓ メントール加熱器。以前雨樋の水を受けるために作ったステンレスの箱を改造し、パソコン用のファンを取り付けたもの。水を入れて下から電熱ヒーターで沸かして、蒸散したメントールガスを送り込む。
依頼を受けたのは9月で、春から出入りがあったとのことなので、群れに勢いがあればそれなりに巣も大きくなっているはずです。ファイバースコープで内検したのですが、巣脾とたくさんの蜂は確認できましたが巣の全貌は確認できませんでした。入り口が狭ずぎてファイバーが思うように操作できませんでした。
群れにとっては9月は逃去が許される最後の季節です。ニホンミツバチの1年間の暮らしについてご説明し、今追い出そうとしても粘られてなかなか出ていかず、寒くなってからでは蜂たちを路頭に迷わせることになる、できればこのまま冬越させて春になって分蜂が終了するまで待って頂くことはできませんか?とお願いしました。頻繁に通って観察結果のご報告をし、かまどに薪をくべる冬の時期に刺されたりしないように、ボイラーの焚き口の裏をベニアなどで囲ってガードすることで蜂の航路を一方向に限定し、人と蜂が遭遇しないようなシステムを作りました。
春になり、分蜂した群が大引越するから、引越先を用意してあげることで出やすくしてあげましょうと、庭の隅っこと裏の畑に待ち箱を2基設置。予想した日に大群が出て、分蜂の迫力あるシーンも見て頂くことができました。第一分蜂、第二分蜂もお行儀よく二つの巣箱に入居しましたので、私が意のままに蜂の行動を操ったかのようなふうに見えたのでしょうか、、「蜂は怖い、刺す」と言うネガティブなイメージを少し払拭することができたかもしれないと思っていました。床下と違い、巣箱を出入りする蜂を少し離れたところから観察できたりすることは、ミツバチに対する恐怖のイメージを和らげることができる気がしました。
結局、元巣を引き継いだ末娘群も居残りましたが、床下の高さが少ないことがあり、この群は放っておいても逃去するのではないかと予測しました。末娘群の数が少なく活性も低かったので何となくそんな気がしていました。
その予測が見事的中し、梅雨が明けた頃に蜂はいなくなりました。
スレート壁と基礎コンクリートの隙間をシリコンで封鎖し、今後は営巣されないように処置して、この群の保護収容(?)は無事完結いたしました。
庭と畑に置いた巣箱は順調に育ち、今は冬籠です。6月ごろに採蜜し、一緒に収穫を喜びたいと思っています。このような格好で床下営巣群の問題を解決できたのは、一番はお施主さんが自然や生き物に対して寛容な人であったこと、自然と共に暮らす素晴らしさを表面的な部分ではなくご自身が実践することの楽しさを知っている賢者であったことでした。
私は保護収容の目的とは、(ちとおこがましい言い方になるが)教育的側面、啓蒙活動として、やる価値があると考えています。それまで蜂は怖いとしか考えられなかった人が、ミツバチの壮大なドラマを目の当たりにして、蜂の命のみならず受粉の貢献や環境バロメーターについても学ぶこと、その方が楽しいじゃないですか!と楽しさを分かち合えること。
そういう保護収容、そう言う出会いをこれからも大切にしていきたいと思います。