昨年の梅雨が明けようとしていた頃、保護収容の依頼がありました。「隣に住む人が敷地内にある古い土蔵の床下にミツバチが巣を作っていて、駆除しようとしているので、保護して自分で飼育してみたい」と言う方からの相談でした。その機会にこのサイトのユーザーとなったtomosugerさん。ヤル気満々のご夫婦で旦那さんは考古学関係で自然・地球環境のみならず「時代」と言うZ軸までをも行き来する方で穴掘りの名人。奥様は美大出身者でクリエイティブな感性に溢れた北川景子似の美人です。よちよち歩きの可愛すぎるご子息と犬猫うさぎニワトリも共に暮らし、狩猟免許も持っている。
なんだかんだと都合が合わず、ものすごく延期して結局年が明け、分蜂の準備が始まろうかという3月7日に実施しました。協力を仰いだのは言わずと知れた千葉の宝、あつまっちさんです。(artemisさんは用があって欠席)
現場は土蔵の前室にあたる小部屋の床下で、手前の縁の下から覗くと一番奥の角に営巣している様子が目視できます。
私は一度下見に伺いましたが、それ以降の事前の調査はtomosugerさんが詳細な図面と写真を続々と送って来ます。
通常の保護収容は「どうでも良いから早く駆除しちゃってください」と言う感じで計画にはノータッチですが、引き受けた私とあつまっちさんとtomosugerさんがチームとなって計画を立てて行きました。送られてきた資料を元に収容の手順や収容後の巣箱のデザインなどを検討し、tomosugerさんと一緒に飼育巣箱の制作もして、収容の日取りを検討しました。
大抵の場合、分蜂群が民家のどこかに営巣したことに気付いた家主さんがびっくりするのは5月6月くらいで、そこですぐに収容できない場合は厄介な夏がやってきます。みなさんご存知の通り、夏は巣脾が柔らかくなるため収容の難易度が高くなります。暑い中で床下や屋根裏に入るのは重労働ですし、失敗のリスクが高まります。しかし冬の保護収容は巣がしっかりしていて扱いやすかったです。蜂も比較的分散せず、寒いと刺されるリスクは増えますが、体力的にも作業は楽でした。秋まで待ってもらえるように依頼主を説得できれば、秋冬の保護収容はアリだと思います。
色々なスケジュールの関係で伸び伸びになって、秋を過ぎて冬に、そして年が明けて、遂に分蜂の準備が本格的に始まるギリギリの時間になってしまいました。いよいよ始めようかと言う頃になって、この群がアカリンダニに寄生されていることが判明。収容後に2キロ以上離れた場所への仮置き、そしてtomosugerさん宅に正式に設置した後にアカリンダニの駆除も視野に入れ、いざ収容作業を3月7日に実施しました。
まず手前の床を剥がします。思ったより床板の厚みが薄く衝撃に弱かったことが後で判明。
例によってあつまっちさんが床下に潜って側壁や根太と縁を切る作業をします。
手前に見えるのがtomosugerさんと一緒に作った飼育巣箱
馬に仮置きして巣脾の修正をします。あつまっちさんが壁から切断した切断面を飼育巣箱の側面に密着する位置に収め、蜂が壁に巣脾を接着しやすいようにします。蜂は2〜3日で巣の修復をしてしまいます。切り出し作業もこのような作業も半田ごてが便利です。ライトセーバーのようによく切れる。
壁の残った蜂を吸引して巣箱に合流し、迷い蜂が出ないように巣箱は蔵の外の巣門の隣に1週間仮置きしました。
すぐに移動しなかったのには理由がありました。これは完全に私の判断ミスだったのですが、床を剥がす際に、床が釘で止めてあって、釘抜きで抜くのですがバールを打ち込む時に生じる衝撃によって手前と奥の巣脾が1枚ずつ巣落ちしてしまいました。残された巣脾の付け根にも亀裂が入っていたため、すぐに動かすのは危険と判断し、蜂が修復を終えるまで巣箱は蔵の巣門のすぐ横に仮置きすることにしたのです。
7.6キロ離れた知り合いの農場の納屋に仮置き1週間。
そして1週間後、tomosugerさんの庭にようやく設置!
現在、tomosugerさんが懸命のアカリンダニ駆除をしています。駆除はメントールシートです。片面段ボールにエタノールに溶かし込んだ液状メントールを塗布、乾燥させた段ボールシートを巣箱内に設置します。
表面積が広い段ボールに付着したメントールは1日で半分以上蒸散しますので、巣箱内を濃いガスで満たすことができます。
かなりの荒療治ですから、巣箱内容積と蜂の数、シートの枚数、巣門の開口面積などの条件が理想的な塩梅を探すのが難しいのですが、tomosugerさんが連日粘り強く観察しながら最適な条件を見つける努力をしています。初めてのミツバチ飼育がアカリンダニとの闘いとは気の毒ですが、わずかな群の変化を見逃さない重要性を痛感されて、それはきっと今後に生かされるはずです。
保護収容をきっかけに素晴らしい蜂友さんができたことを嬉しく思います。この群が果たして、無事に分蜂できるのか。それとも今年の分蜂は見合わせるのか。楽しみに見守りたいと思います。